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会社の命令で海外に赴任する場合、最も配慮しなければならないことの1つが、赴任中の給与
である。
税制も社会保険制度も各国まちまちであるから、仮に、「給与は現地の会社が払うので、その国の制度に従って税金や社会保険料はあなたが負担して支払ってください。」というルールにしてしまうと、赴任者本人は現地でいくら税金が引かれ、いくらの手取りで生活をしなければならないのか分からず、不安を持つのは当然である。
また、仮に給料が同じなのに、A社員は赴任先国で税率10%、B社員は赴任先国で税率30%で
は、その手取額に違いが生じ、社員間での不協和音が生じるリスクもある。
このように海外給与をグロス保証(=税金・社会保障費は社員負担)にしてしまうと、その税金や社会保障費の変動リスクを常に社員に持たせてしまうことになり、公平な給与制度とは呼べないものとなる。
赴任者に気持ち良く海外で勤務してもらい、最高のパフォーマンスを引き出すためには、公平、かつ、合理的な給与の取り決めが必要であり、そこで登場するのが“ハイポタックス”(みなし税)という考え方である。
例えば、1年以上の予定で日本から海外へ赴任し海外現地の関連会社などで働く場合には、現
実には、その間の日本での納税義務はなく、その海外現地の制度に従った納税を強いられるこ
とになる(【第1回】国際出向社員の各種法律における身分関係①(税務)参照)。
しかし、どの国に赴任しようとも赴任者本人に負担させる税金等は日本にいた時と同水準にするという目的で、「もし、その赴任者が日本にいたならば」、という想定で税計算をし、その仮想上の手取金額を計算する。
この仮の計算における税金がハイポタックス(Hypothetical Tax = 仮想に基づいた税金)であり、一般的には“みなし税”と呼ばれている。
一般的には、みなし税控除後の手取給与を最低保証のベースとし、その他会社のルールに沿っ
て、円貨・外貨の区分、生計費指数、海外手当などを考慮して海外赴任者の給与を決定するの
である。
給与から既にみなし税が控除されているわけであるから、赴任先国で生ずる税金はすべて会社
負担とするのが原則の考え方である。
名称 | 内容・留意点 |
海外勤務手当 | 海外勤務に対するインセンティブおよび海外生活における追加生活費(国際電話利用、日本食購入、日本語書籍等の購入費など)の弁済的な意味合いを持つ手当。 9割以上の企業がこの手当を支給しているとされる。 |
パートナーシップ手当 | 社会インフラ、気候、風土、食生活などが厳しい地域に赴任する場合に支給する手当、政情が不安定な発展途上国では年々環境が変わるため、手当額をタイムリーに見直す必要あり。 |
帯同家族手当 | 帯同家族の追加生活費を弁済するための手当。配偶者、不要人数に応じて加算する方法や国内勤務時の給与に一定率を乗じて算定する方法が一般的。 |
住宅手当(費用) | 現地での住宅費を手当として補填する方法と、現地借り上げ住宅を直接提供する方法があるが、一般的には後者が多い。 |
留守宅手当 | 単身赴任、残留家族の有無、持ち家の管理状況などにより一定額又は国内勤務時給与の一定割合を補填する手当。 |
子女教育手当 | 日本人学校などの費用補填手当。 |
税金・保険の補償 | 現地での所得税、住民税、社会保険料などの補填手当。 |
その他 | 海外と工事の移動費、荷造費、査証取得費などについてルール化する必要あり。 |
1年以上の予定で海外に出向する場合、その社員が受け取る給与は非居住者の国外源泉所得
であるから、日本直接払い、海外現地払い、両方での分割払い、いずれの給与であっても日本
での納税義務はない(内国法人の役員を除く)。
タックスイコライゼーション(Tax Equalization)とは、分かりやすく言うと、「ハイポタックス(HypoTax)の年末調整」のことである。
海外赴任時、又は、新年度初めに、日本で勤務していることを想定して、向こう1年間の給与をベースにみなし税金の計算を行うケースが一般的であるが、1年後には扶養条件が変わっていたり、税制や保険料率の変更などもあったりで、必ずしも当初計算したみなし税金が正しいとは限らないのである。
より公平性を保つには、年末調整を行うがごとく、改めて年間のハイポタックスを再計算し、その過不足を精算する手続きを行う必要がある。これが国際人事に携わる者の業界用語(世界共通)として、タックスイコライゼーションと呼ばれている。
ハイポタックスやタックスイコライゼーションという考え方は、決して日本の法律で定義されているものではなく、また、特定の外国のルールでもない。単に、海外に社員を派遣する際の国際人事上の考え方の1つである。
したがって、どの税金までを対象としてハイポタックスを計算するか、また、どのタイミングで、どの控除項目までのタックスイコライゼーションを行うのかは、各社の判断となる。
海外派遣社員の給与アレンジを考える上で大切なことは、会社にとっての経済的・事務的コストを最小化し、いかに社員のモチベーションを最大限に引き出すか、ということに尽きる。